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太い実線で示した非金融法人企業(一般の企業)は、一○年前はGDPで一○%、すなわち毎年五○兆円ものお金を借りて新商品開発、設備投資、不動産投資錘といったいろいろな分野に投資をしていたことがわかる。 そこに五○兆円の資金需要があったということは、それだけ企業がお金を借りて使い、景気を支えていたということである。
ところが一○年後の今、非金融法人企業の行動は、何とゼロよりも上に位置している。 ゼロよりも上ということは借金返済をしているのである。
例えば一九九九年で見ると、このシフトは一九九○年比でGDP比一四%もあり、これは一九九○年に五○兆円借りていた企業がこの時点では二○兆円の借金返済をしていたことになる。 五○兆円の資金需要がなくなっただけでなく、企業が上げた収益の二○兆円が再投資ではなく、借金返済で消えていったのである。
ということは、トータルで七○兆円も資金需要がなくなり、七○兆円も法人需要がなくなってしまったわけである。 GDP比一四%分もの需要がなくなれば、日本経済が不況になるのは当たり前のことなのだ。
つまり、日本経済を議論する上で最初に共有されなければならない認識は、今回の不況の主因は企業部門の行動変化にあり、個人部門が主因ではないということである。 では、なぜ企業はこういう行動をとったのだろうか。
その答えはMにある。 すなわち企業は自分たちのバランスシートを直撃した資産価格の暴落を見て、「これは大変なことになった。
早くバランスシートをきれいにしないと、いつ、どこで、誰に、あなたの企業は債務超過ではないかと言われかねない。 そう言われる前に早く借金を減らして、健全な財務内容に持っていこう」と、こうした行動をとり始めたのである。
つまり、今の日本企業の多くは通常の「利益の最大化」から「債務の最小化」へ軸足を移してしまっており、そのあげくが、GDP比一四%もの需要減という結果をもたらすことになったのである。 日本のマスコミに登場する多くの評論家は、日本経済がこんなに悪化してしまったのは企業がリストラを含む改革を先送りしてきたとか怠慢だったという言い方をしているが、これは基本的に間違っている。
企業経営者が資産価格の下落を深刻に受け止め、バランスシートの修復を先送りせずにみずからの消費や投資を落として、借金返済を急いでいるから不況になっているのである。 実際に個々の企業行動を見ると、三五○○社ある上場企業のなかで借金返済に走っているのが二○○○社近くあり、借り入れを増やして事業を拡大しようとしているのは一○○○社弱しかない(残りの五○○社は借金の額が不変)。

ゼロ金利の現状でこれだけ借金返済に走っている企業が多いということは、拡大均衡が大前提の資本主義経済では異常中の異常事態であり、これまでとまったく違う発想で対応しなければならない。 なぜこれまでと違う発想が必要かというと対応を先送りにしていたのであれば、日本経済が不況になる理由などなかった。
そうであれば今でも企業部門は毎年五○兆円のお金を借りて使っていたに違いないからである。 この間、国内でも拡大路線を堅持した企業もあった。
例えば「S」は、やがて景気は回復し、資産価格も元に戻るだろうと思って、投資をどんどん拡大していった。 ところがほかの企業は、資産価格は元に戻らないと見切って、早くバランスシートをきれいにしなければいけないと一斉に借金返済に回り、そのことが景気をどんどん悪化させていった。
そういうなかで「S」だけが、従来通りの拡大路線を続けても、需要は彼らの予測通り拡大せず同社は破綻したのである。 しかし「S」がそうやって拡大を続けたことは、その分景気を下支えしていたのであり、そうでなかった企業はひたすら日本経済を縮小均衡へ追いやっていったと言しかも、やっかいなことに、八○年代までの日本経済の成長を支えてきた両輪の一つ、家計の高貯蓄のほうはまだ健在で、人々は一生懸命貯蓄している。
ところが企業はそのお金をまったく借りようとしない。 もう一つの車輪が機能しなくなってしまったのである。

これまでは家計が貯蓄をし、企業がそれを借りて使ってくれたからお金は回っていた。 ところが今は家計が懸命に貯蓄をしても、企業は全然借りてくれない。
借りてくれないどころか、ひたすら借金返済に逼進している。 その結果、企業がお金を借りて使っていた状態に比べ、今は大きな需給ギャップが発生しているのである。
こうなってくると、家計に貯蓄を減らしてもっとお金を使ってもらうか、それとも企業に投資行動を早く元に戻してもらうしか、経済全体がバランスを取り戻す道はない。 前者の可能性については、第6章と第7章で述べるが、後者の企業については、実際に債務超過のような状態に置かれている彼らに借金返済以外の選択肢はない。
企業は、借金を返済して壊れたバランスシートの修復を急ごうという、縮小均衡へ向けて動くしかないのである。 いうと、これまでの経済学や経済政策論は、企業は利益の最大化を目的として行動することを大前提としており、企業が債務の最小化を最優先した時のことは、まったく想定していないからである。
ところがバランスシート不況下の日本では、一○○○円の所得のある人は依然として八○○円を消費に、二○○円を貯蓄に回しているのだが、消費に回った八○○円は順調に回っても、貯蓄に回った二○○円は借り手が見つからなくなってしまう。 これまでお金を借りていた企業のである。
前述のように、一○年前に比べ失われた法人需要は七○兆円にものぼる。 資産価格が暴落した状態で企業が生き残りをかけてバランスシートの修復に向かっている時に、そこで発生する需給ギャップを誰も埋めようとせずに放置しておけば、景気は加速度的に悪化しかねない。
これを数字で見てみるとこのようになる。 例えば、一○○○円の所得がある人が、通常八○○円を自分で使い、二○○円を貯蓄に回していたとしよう。
そうすると、消費に回った八○○円は次の誰かの所得になっているから、そこから経済は回り始める。 残りの二○○円も通常は金融機関に預けられ、金融機関はこれを企業への融資や個人への住宅ローンという形で貸して収益をあげようとする。

そしてその二○○円を借りた人は、それを設備や住宅投資に使う。 そうすると消費に回った八○○円に加え、投資に回った二○○円が使われ、当初の一○○○円の所得に対し、八○○円プラス二○○円の一○○○円の支出・所得が発生し、経済は回っていく部門が一斉に借金返済に回っているからである。
そうなると金融機関は、家計が新たに貯蓄した二○○円に加え、企業が借金を返済したことで戻ってきた資金が加わり、それこそ資金でジャブジャブの状態になってしまう。 バランスシート不況下で金利が大幅に下がるのもここに原因がある(この点については第2章と第3章でしかし金融機関は、何とかお金を貸さないことには収益が出ないので必死に借り手を探す。
それで住宅ローンや政府の国債を職入したとしても、どうしても貸せないお金が半分、つまり一○○円残ってしまったとしよう。
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